2022.04.13|TOPICS 第1回SAKEアッサンブラージュの会 底冷え厳しい冬のある日、京都の伏見、代表銘柄「月の桂」で有名な増田徳兵衛商店にて関係者が秘密裏に集まり、ある試飲会が行われました。それは日本酒の新しい開発手法になるかもしれない、"アッサンブラージュ"を試す会でした。今回はどんな内容だったのか、レポートします。 メスシリンダーに日本酒を注ぐ増田徳兵衛さん アッサンブラージュとは、ワイン造りに使われる伝統的な技法の1つで、原酒を混ぜ合わせることでそれぞれの特徴を組み合わせ、ブレンド前には出せないような絶妙な味わいを生み出します。この手法でしか出せない味があるからこそ、ボルドーやシャンパーニュは今も昔も、フランスそして世界のワインの代表的な存在となっています。 今回のラインナップ 今回はその手法を取り入れ、増田徳兵衛商店さんの9銘柄と、北川本家さんの8銘柄で試してみようという会でした。 ワインでは職人の高度な技術や知識が必要とされるアッサンブラージュの。当然、日本酒での試みはまだまだノウハウが無い状態です。 しかし、増田さんによると、“合酒”といって古酒と混ぜ合わせたり、あじわいの調整などをしていた記録が江戸時代あたりからは確認できるということで、メジャーではないが、昔からあった技法だということも伺いました。自然の酵母に頼っていた時代では、桶ごとに少しづつ違うあじわいの違いを平準化する目的で、大きなタンクでまぜていた事もあるそうで、これも一種のアッサンブラージュということになるようです。また、おもしろいのは、街の酒屋さんでは、顧客の好みに合わせてアッサンブラージュし、通い瓶に詰めていた話も残っています。 さて、次々に集う参加者の皆さん。 北川本家の北川社長 マルヤマ酒店のシニアソムリエの村井さん 増田さん そして、その他にも両蔵の杜氏さんや蔵人、有名フレンチのシェフにも参加していただきアッサンブラージュの会が始まりました。また今回は、京都産業技術研究所の副理事や、日本酒バイオ系チームにもご参加いただき科学的な見地からもご意見を頂くことになりました。 司会進行役Leaf(株式会社リーフ・パブリケーションズ)の上山 前段にLeaf上山より今回の趣旨の説明や目指すべき味わいの共有を行いました。 <目指すべき味の方向性> ①「食中酒」である事。つまり食べものを味わいながら楽しむ日本酒であること。 ②「苦味と香り」に重点を置くこと。 今や世界はグルメ大航海時代。世界各国の料理を楽しむ中で、日本酒=和食では無い。つまり世界のグルメを迎え入れる味わい、または世界のグルマンが欲し、輸出される味わいを見出す事が必要だと言えます。そしてなぜ「苦味と香り」に着目するかと言うと、コーヒーやウイスキーなどに代表されるように、大人の趣向品には苦味が欠かせません。しかも動物的な本能では「苦味」=「毒」とするため、苦味に対する人のセンサー感度は高く設計されていると思います(だから、子供は苦味に敏感。大人になると段々と慣れてきて、苦味という刺激が定期的に欲しくなる)。そして香りから過去の情景を思い出す事もあるように、「香り」は記憶に留まりやすい。つまり「また飲みたい」と思わせるよう、記憶に長く留める設計が必要です。本来、香気成分が多ければ、食べ物の香りとぶつかり合い、“合わない”、もしくは“食べ物の風味を損ねる”といった傾向が見られるにも関わらず、大吟醸酒に代表されるように、比較的香りが高いタイプの日本酒が世界的にも売れているようです。 今回は増田德兵衞商店のエアラインのビジネスクラスで提供されている「柳」をベースに、さまざまな試みをする算段です。 柳はフルーティーで香りも高く、名前のとおりしなやかで、どんな料理ともマッチする味わいです。 まずは1部がスタート。柳をベースにした16種類のアッサンブラージュを用意し、順番に試飲していただきます。 スポイトを手に多くのアッサンブラージュ銘柄をきき酒する参加者たち 今回メインとなる銘柄(柳)に対して一定の割合で別の銘柄をブレンドされたサンプル酒 何をアッサンブラージュしたのか銘柄を隠してありますが、ひとつだけ何も混ぜていない「柳」100%が用意してあります。今回の会では、さまざまな見地からの考察を行いますが、最大のポイントにして、前提条件がひとつあります。参加者全員に、ベスト2とワースト2を投票してもらうのですが、もし、ベスト2に「柳」100%が入っていれば、この会は失敗。この会は無かった事にしようという腹積りです。つまり「アッサンブラージュしない方が良い」という事に他なりません。 ズラリと並んだ銘柄をきき酒する、ラ・ビオグラフィの滝本シェフ。 きき酒しては和らぎ水で口をすすぎ、を繰り返します 増田徳兵衛さんも真剣な表情 そして、、、 投票の結果、増田德兵衞商店「柳」と、北川本家の代表銘柄である富翁シリーズのハイクラスな銘柄「純米大吟醸 山田錦49」。の組み合わせが一番美味しいということになりました。一番多かった意見としては「どちらの個性・良いところも感じられ、なおかつ美味しい」。 どちらも4号瓶で2000円を超えるハイクラスな銘柄です。ここから考察できる事は、良い酒は、そのものの味の骨子がしっかりしており、アッサンブラージュしても損なわれにくいのではないかという事です。 参加者からのコメントとしては「まず最初の印象が良い」「じんわりと苦味と旨味の余韻を感じる」「うわ立香りが上品」「最初はやわかいテクスチャーだが、途中から苦味と旨味が顔を出し長く続く」「食中酒向き」「アフターフレーバーの苦味が心地よい」「厚みのある味が、余韻をもたらし、消えない」「味にふくらみがある」などがありました。 ここまでで1部が終了。次は、増田德兵衞商店「柳」×富翁「純米大吟醸 山田錦49」の割合の調整です。1:9〜5:5〜9:1まで、9種類を試飲し、ベストな割合を探し出します。 京都産業技術研究所・研究長の廣岡さん 繊細な違いを確かめて、メモを取る参加者 そして、今回の結論は、、、 増田德兵衞商店「柳」×富翁「純米大吟醸 山田錦49」=7:3 どちらの銘柄の良さも感じつつ、上品な香りとやわらかいテクスチャーからはじまる。そして、後からだんだんと旨味と苦味が顔を出し、余韻が長く続く。そんな味わいが設計できたのでは無いかと思います。これは、あくまで今回の結果です(「食中酒として」「苦味と香りの設計」を念頭に置いた結果)。「麻婆豆腐によく合う味は?」「カレーに合う味は?」など、もっと詳細に想定していけば、また違った見解が得られると思います。 上山の感想:「正直、とても難しかったです。どれも美味しい。この会を開催する前に予行演習した際には、もっと安い、よくスーパーみかける銘柄なども用意してやったのですが、その時は、味同士が打ち消しあって、味が消えてしまったり、全然違う味が生まれたり、変な香りが浮き出てきたりと破茶滅茶だったのですが、今回の銘蔵の良い銘柄ばかり集まると、どの組み合わせも実際は美味しい。あとは好みの世界かもしれない。でも“打消し合い”や“相乗効果”などが発現するメカニズムがノウハウ化できれば楽しみが広がりますね!」 京都市産業技術研究所の安河内副理事長:「産業技術研究所として、香気成分の分析もできるので、今日のできあがったものを分析にかけて、科学的に見るのもいいのではと思いました」。 北川本家 田島杜氏:「どうしても私達は日本酒のきき酒に慣れているので無難な酒を選びがち。酸をつける、香りをつけるなり、ここをベースに個性のあるものをつける、というのは一つの考え方かな、と思いました」。 増田徳兵衛さん:「酒を考える時に大事なのは、何を食べる時にこれを飲みたいか、これを飲んだ時に何を食べたいか、と考えることだと思っています。酒だけ飲んで考えるのは難しい…。この日本酒やったら、これを食べたいな、と思うもの。例えば味噌田楽とこの銘柄、おでんとはこの銘柄、今日は肉があるから、こんな日本酒が飲みたいな、というような。そういうイメージングができて、このアッサンブラージュが成り立っていくんだと思っている。それをみんなで考えていけたら、と思っています。技術力というよりも、みんなの感性。普段何を食べているか、何を飲んでいるかの組み合わせから成り立っていると思う。ますますみんなで精度を上げて、面白いたのしいものでないとみんな飲んでくれないと思うので、そういうのをみんなで探って、作っていきたいと思っています」。 こうして、第1回のアッサンブラージュの会は参加者全員の一本締めで、幕を閉じました。 次回のアッサンブラージュの会もお楽しみに! この会から、アッサンブラージュ商品が出来上がりました! https://shop.leafkyoto.net/products/220425-nihonshu01 一覧へ戻る